Fukuchiyo sake brewery | steel wall gallery
富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー

Site
Saga

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(c) Techni Staff
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Fukuchiyo sake brewery | steel wall gallery
富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー

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Saga

Data

2014

Photo

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Award

日本建築学会 作品選集 2017
日本建築学会 作品選集 新人賞 2017
日本建築学会Japan Architectural Review Best Paper Award 2019
JIA 日本建築家協会 優秀建築選 2015
AACA日本建築美術工芸協会 芦原義信賞〈新人賞〉2016
日本建築士会連合会賞 優秀賞 2016
グッドデザイン賞 2016
日本建築学会 九州建築選 2015 佳作
日本インテリアデザイナー協会 JID AWARD 2016 大賞
日本商環境デザイン協会 JCD アワード 2015 best100
SDレビュー2014 入選
アイカ施工例コンテスト 2015 最優秀賞
Archidaily 2017 Building of the Year Awards 改修部門ファイナリスト(5作品)入選

Press

新建築2015年9月号(新建築社)
ディテール2016年1月号(彰国社)
建築士2014年8月号掲載(日本建築士会)

 佐賀県鹿島市は東部が有明海に面し、南西部が長崎県と県境をなす人口約3万人の街である。 鹿島市・肥前浜宿は有明海に注ぐ河口につくられた古い町並みが残る在郷町で、港町・宿場町として栄え、豊かな水と米があることで江戸時代から酒づくりが行われてきた。その中で、大正末期創業の富久千代酒造は1,000石の酒蔵であるが、さまざまな鑑評会で賞を獲得するなど高い評価を受けてきた。2011年に銘柄「鍋島」がIWCインターナショナル・ワイン・チャレンジ日本酒部門で世界一の最優秀賞を受賞したことで、一気に多くの注目を集め、酒蔵には各地から観光客が多く訪れるようになった。蔵開きを中心とした「鹿島酒蔵ツーリズム」が始まり、2015年には2日間で7万人の集客を得たようである。
 受賞を契機に、建主はショールーム・オフィス・ラウンジ・米倉庫などの改修計画に継続的に行っており、本計画は登録有形文化財の旧精米所(1921年竣工)を来訪者の試飲や酒造り展示のできるギャラリーに改修したものである。登録有形文化財であるため、基本的に外観や形状の変更はできず、外壁を焼杉によって修景している。旧精米所の建物は長らく倉庫となっており、隣の設備棟に構造的にもたれかかって傾いている状態であった。計画では、屋根の軽量化と共に曳き起こしにより傾きを修正し、梁の下に新たに鉄板を挿入することで構造補強している。12mm厚の黒皮鉄板の壁は、正方形の孔の周りに4.5mm厚のリブ枠材を取り付けることで耐力を上げると同時に、一升瓶や四合瓶を展示する什器となっている。構造がそのまま仕上げになる鉄板壁は、磁石を利用した什器として使うことで将来の展示計画への対応も考えている。
 計画にあたり、一般的な古民家改修に見られるような柱梁の接合部を補強する方法ではなく、構造補強の鉄板を内側にオフセットして挿入することで、内壁の94年前の土壁はできる限りそのまま残そうと考えた。それは時間の堆積した土壁という重厚なマテリアルに対して、古色塗りでカモフラージュした木材のような構造補強のための表層的なマテリアルを衝突させることに違和感があったからである。そうしたマテリアルに内在する時差を承知しつつ、あえて鉄板を用いたのは、黒皮鉄板にも土壁の持つエイジングと同質の錆びゆく美学があると感じた所以である。
 私たちはアルベルティからwindowsに至るまで、フレームのなかに見たものによって世界を知る(『ヴァーチャル・ウィンドウ』2012年、産業図書)。鉄板壁に穿たれた正方形の孔は、いわばそうした94年前の得も言われぬ土壁をフレーミングし、観測するための装置(observation device)となる。ギャラリー内部の展示物を観ることはもちろんのこと、正方形の孔を通じてこの建築を観る、という複数の視点を同時に得ることもまたこの計画の重要なテーマのひとつであった。
 全体の計画を通じて、古くから残る建築の祖形を際立たせつつ敢えて新しい要素を入れることで、所与の空間や古いものがさらによく見えるような「建築的介入」(Architectural Interventions)の思考を常に意識している。