Tano distillery
高橋酒造 田野蒸溜所・交流施設
Site
Kumamoto
Tano distillery
高橋酒造 田野蒸溜所・交流施設
Site
Kumamoto
Data
2025
Photo
(c) Yousuke Harigane
Press
新建築2025年11月号(新建築社)
球磨焼酎で知られる地元の老舗酒造メーカーが新たに手掛けたウイスキー蒸溜所・交流拠点である。本施設は、2020年7月の九州豪雨で甚大な被害を受けた熊本・人吉球磨地域の創造的復興の拠点・シンボルとなるよう、熊本県の「くまもとアートポリス事業」として計画された。計画地は人吉市田野町(標高680m)に建つ、2014年に廃校となった旧・田野小学校(1988年竣工)である。木造の校舎を貯蔵庫やギャラリー・オフィスに、鉄骨造の体育館を蒸溜所に改修し、グラウンド側にリニアに増築して2棟を繋いでいる。既存の構造やプランを活かしながら自立した鉄骨造を増築する、アダプティブリユースの試みである。
敷地の南側には雄大な田野高原が広がっており、その風景を水平に切り取るように、床と屋根の2枚の水平な鉄骨造のプレートを挿入した。これらの水平面は、風景をフレーミングする指標として機能し、高原の緩やかな起伏やダイナミズムを際立たせている。また、小学校の軸線を強調しつつ、新たな空間の座標軸を再定義する役割も担っており、今後の施設展開におけるベンチマークとして、未来をかたちづくる出発点となることを意図している。
再生にあたって、地域の方がたにとって親しみのある赤い屋根や小学校の教室といった「郷愁を誘う記憶」を丁寧に継承することを重視した。平屋の木造校舎は屋根裏の気積が大きかったため、教室の骨格を残しながら天井を抜き、木架構を現した貯蔵庫やギャラリーとした。屋根裏の一部に新たに2階床を挿入して展示スペースを設け、教室の片廊下に設置した鉄骨造のスロープによって、アクセスできる構成としている。リニアな増築部の2階には、試飲スペースと渡り廊下を設け、校舎と体育館を繋ぐ構成とした。増築部と挿入したスロープ・2階床を一筆書きに繋ぐことで、1階の生産ゾーンと2階の見学ゾーンを明確に分離し、絶対水平面を境界として、上下で異なるふたつの世界をつくり出している。
増築部や挿入したスロープ・床は、既存の校舎・体育館に荷重を負担させないよう、既存の構造を縫うように新たな別の構造を挿入している。このように改修と増築を一体的に捉える手法は、従来にない新たな改修の試みとなった。
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